管理人が読んだ小説やマンガの中から、オススメっぽいのを徒然に書き残していく新コーナー(?)。
2本目は、小川洋子【博士の愛した数式】(新潮文庫)です。
『一家で一冊は買っておきましょう』な小説です。
小説を読んでいて常々感じることですが、途中がどんなに面白くてもラストがイマイチだと、作品全体もイマイチな印象になります。
逆に、ラストが、特に最後の一文がビシッと決まると、読後の至福感がたまらないものになります。
『いいもの読ませてもらって幸せだなあ』『小説が好きでよかったなあ』みたいな。
作中で、オイラーの等式が出てきます。
eπi+1=0
ホントもう、【?】がいくつあっても足りないくらい『なんのこっちゃ?』って式です。
でも、この一切の無駄を排除したシンプルさこそが、【博士】が愛し求め続けた数学の美しさなのだと思います。
この小説のラストも、【博士】に敬意を表してか、オイラーの等式に負けないくらいシンプルで美しいものになっています。
最後の一文は、句読点込みでわずか6文字。
でも、この6文字を読ませるために、この小説は書かれた…そんな気さえしてくる、何度読んでも震えるラストシーンです。
作中、【博士】が【私】に『君が料理を作っている姿が好きなんだ』と語りかけるシーンがあります。
【博士】の記憶は80分しかもちません。
一日経てば、また初対面に戻ってしまうような関係です。
だから、恋愛感情や親愛感情に基づくセリフではなく、文字通り『料理を作っている姿が好き』なだけなはず。
けれど。
もしかしたら。
『80分経てば消えてしまう記憶』とは違う、【博士】の中の【博士】が自覚できない場所に、【私】(と【ルート】)は常にいたんじゃないかな。
【私】と【ルート】が、【博士】と【博士が愛するもの】をどこまでも大切にしたように、【博士】も、【私】と【ルート】のことを大切に想っていた。
【博士】の記憶から消し去られている間ですらも。
そんな妄想をしています。